ノルウェー伝説のひとつ

ミリタリズムの歴史―文民と軍人

ミリタリズムの歴史―文民と軍人


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実際、戦争を終結させることは困難な問題であり、職業軍人には手に負えるものではない。ノルウェー伝説の一つのなかで、民間伝承の語り手が次のように述べている。

 「 この王は自分に忠告するものは誰であれ容赦せず、自分を喜ばすこと以外に耳にするのを好まない。……しかし、われわれ農民は、汝、オーラフ王が平和をもたらすことをのぞむ。もし汝がわれわれの願いをかなえようとしないならば、われわれは汝を殺害し、平安なき不法なる状態をもはや黙視しないであろう。これはわが父祖たちが行ってきたことである。わが父祖たちは、近くにある井戸のなかに五人の王を投げ入れた。これらの王たちが慢心し、法に背反する行為を犯したからであった。」


 国際情勢や安全保障において、抑止概念を最上位概念に考えるリアリストは、国内権力関係においての、このような抑止についてはほとんど無頓着である。無論、このような転覆や反逆の可能性を秘めた「抑止」はアナーキーや下克上への転落要素を秘めているとはいえる。しかし、それをいうのなら、形式的でない実質的戦力を追求する軍事力も無辜の民の殺害や不要な戦争喚起、独裁の招来の転落要素を秘めるので同じことである。

 私は、権力内部関係(組織それは公的、民営を問わないし、運動団体のような指揮命令系統にあるすべてのものを含む)にこのような緊張関係が孕ます伝統をわが国が有していないがゆえに、昨今にみられるような、不祥事における姑息な言い逃れやブラック企業の際限なき酷薄さの亢進などが見られる。そのように思えてならない。